まだ誰も知らない恋を始めよう
 フィニアスのこの返しには、こちらが驚いた。
 食費は自分で稼いでるって言ったよね?
 働かないと、お金は手に入らない。
 そこを聞き逃してた?

 でもそれより、驚いたのは。
 彼がわたしを貴族の娘だと知っていたことだ。


「うちの事、知ってたの?」

「……うちの客層は貴族階級だから。
 大体の家名と爵位は頭に入れてる」

 意外と、ちゃんとしてるんだと思った。
 正直に言って、顧客情報は卒業してから、つまり後継者として働き出してから覚えても遅くないだろうに、もうインプットしていたのか。


 それに感心はしたけれど、ご令嬢なるワードがわたしのツボに嵌まってしまって、笑いが止まらない。

 お湯を沸かすのが勿体ないと毎日お風呂に入らなくて、奨学金を貰って路線バスで通学して、ケーキを売って食費を稼ぐ。
 そんなわたしでも、身分は貴族のご令嬢なんてね。
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