まだ誰も知らない恋を始めよう
フィニアスは、何がわたしを笑わせているのか分からなくて、苦笑いしていた。
その顔も可笑しくて……ようやく、笑いの波が引いて。
「失礼しました、笑い過ぎた。
あのね、マッカーシーは覚えなくていいよ、忘れて?
わたしも父も兄も、これまでペンデルトンに足を踏み入れたことも無いし、これからも絶対に顧客にはなれそうもないから」
「忘れて、なんて……何で」
少し怒ったように言ってくれるフィニアスに、わたしは微笑むだけにした。
わたし達は、これが終われば。
元に戻るだけ。
住む世界が違う。
だけど、わざわざ言わなくてもいいよね。
わたしは、平和主義者で。
人様には自分の意見を主張しない大人の女なのだ。
何となく、その思いが彼には伝わったのだろう、さりげなく話題を変えてくれる。
「仕事先を聞いていい?」
「いいよ、シーズンズ、って知ってるでしょう?
大学に入ってからだから、もう3年になるかな」
「シーズンズ……ムーアの店だな」
「イートインじゃなくて、テイクアウトのケーキの方でね」
フィニアスがムーアの名前を出した。
老舗のペンデルトンとは違い、ムーアは今の会長が一代で興した多角的経営の商会で。
王家や高位貴族の顧客を持つ格式高いペンデルトンホテルと、裕福な平民向けの華やかなホテルクリスタルを経営するムーアは、ライバル関係だと知られていた。
その顔も可笑しくて……ようやく、笑いの波が引いて。
「失礼しました、笑い過ぎた。
あのね、マッカーシーは覚えなくていいよ、忘れて?
わたしも父も兄も、これまでペンデルトンに足を踏み入れたことも無いし、これからも絶対に顧客にはなれそうもないから」
「忘れて、なんて……何で」
少し怒ったように言ってくれるフィニアスに、わたしは微笑むだけにした。
わたし達は、これが終われば。
元に戻るだけ。
住む世界が違う。
だけど、わざわざ言わなくてもいいよね。
わたしは、平和主義者で。
人様には自分の意見を主張しない大人の女なのだ。
何となく、その思いが彼には伝わったのだろう、さりげなく話題を変えてくれる。
「仕事先を聞いていい?」
「いいよ、シーズンズ、って知ってるでしょう?
大学に入ってからだから、もう3年になるかな」
「シーズンズ……ムーアの店だな」
「イートインじゃなくて、テイクアウトのケーキの方でね」
フィニアスがムーアの名前を出した。
老舗のペンデルトンとは違い、ムーアは今の会長が一代で興した多角的経営の商会で。
王家や高位貴族の顧客を持つ格式高いペンデルトンホテルと、裕福な平民向けの華やかなホテルクリスタルを経営するムーアは、ライバル関係だと知られていた。