まだ誰も知らない恋を始めよう
「ムーアの会長さんには会ったことは無いけれど、シーズンズは支配人も、キッチンのチーフも、掃除夫のおじいさんも親身になってくれるアットホームな職場なの」
 

 その通り、シーズンズはいい職場だと思う。
 支配人のベイカーさんは、本当は学生は駄目なのに面接でわたしの境遇を知って雇用してくれて、学業優先でシフトに入れてくれるし。
 キッチントップのカーニーさんは、終業までの遅番の時は、残ったケーキを持ち帰らせてくれるから、非常に助かってるし。
 掃除夫のヒューゴさんは、権限も無いくせに
「卒業したら、わしのコネでムーアで働いたら?」なんて笑わせてくれるし。

 そんなことをフィニアスに説明すると、彼はぼそぼそと
「コネなら、うちでもいいんじゃないかな」みたいなことを口にしたけれど、はっきり言われていないので聞こえないふりをした。
 将来は接客業に就きたい訳じゃないし、わたしには別の夢があるからだ。


「仕事は毎日じゃないよね?
 何時に終わるの?」

「明日の土曜と来週の月曜と木曜日と次の土曜もね。
 月曜だけが16時からの遅番で、他は全部10時から17時上がりの早番だけど、その時間からなら遅すぎるでしょう?」

「……じゃあ、仕事が無い日なら俺と会える?」

「承知致しました、ボス」
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