まだ誰も知らない恋を始めよう
 会えない事を、残念そうに言われて……
 改めて、しっかりしろ、 と。
 フィニアスに敬礼をしながら、わたしは自分に言い聞かせる。
 彼はわたしの雇い主で、その線引きは絶対に忘れるな。


 連休で大学が休みでも図書館は開いてるので、フィニアスは魔法関連で調べると言う。
 

「貴方は、魔法だと思うの?」

「今のところ、そうとしか考えられないから」

 わたしは魔力持ちではないので、魔法が相手なら、手も足も出ない。
 取り敢えず日曜にまた来ると言うフィニアスに、そろそろ帰るように促した。
 うちの近くのバス停からペンデルトンホテル前へ行く終バスの時間が迫っていた。
 

「急いでね、最終便まで後30分しかないよ。
 この時間のバスなら空いてて、念願の2階席に座れるからよかったね?」


 屋根無しの2階席で、5月の夜風を受けながら帰るのは気持ちいいだろう。
 そう思って、見送ろうとさっさと立ち上がれば。
 

 わたしを見上げる彼は、何か言いたげで。
 
 でも、何も言わなかった。
 
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