まだ誰も知らない恋を始めよう

12 俺 meets 彼女

 急がないと最終便に間に合わないよ、とダニエルにせかされて、俺はマッカーシー家を出た。
 振り返れば、彼女が俺に手を振ってくれていて。
 その笑顔に、よかった、まだ見捨てられた訳じゃない、と胸を撫で下ろした。


 あんな風に御礼なんて言って、金の話をするんじゃなかった、と夕食をいただいている間もずっと後悔していた。
 

 俺がその言葉を出したら、ダニエルは少し間を置いて
「この状態が解決すれば、報酬は思いのまま、ってこと?」と言ったからだ。

 それに加えて、冗談だったのかもしれないが、会える日を確認した俺に対して
「承知致しました、ボス」と敬礼をした。


 報酬とボス……これは、もしかしたら。
 やはり……俺の言い方が不味くて……取り引きとか、契約とか、そんな感じに受け取られてしまったような…… 

 助けて欲しい、とただ頭を下げたらよかったのに、雇うみたいに思われた?
 御礼に……なんて言わなきゃよかったんじゃないか……

「君が言ってくれる金額を、出来るだけそのまま支払う」とか、今更だけど失礼でしかない。
 あぁ……俺は本当に、話が下手だ。


 あれからダニエルが急にすんっとなって、一線を引かれた感じになったのは。
 馬鹿な俺の、彼女の生活環境を知った俺の不遜な物言いが悪かったんだと分かっているのに、それも挽回出来ない自分が、本当に情けない。


 こんな俺だから、最初に声をかけてきてくれた彼女に嘘をついてしまった。
 如何にも初対面で、君のことなんか知りません、みたいにすましてしまったけど。
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