まだ誰も知らない恋を始めよう
 けど、その言葉を飲み込んだ。
 ランチを一緒に食べるこのテーブルに座るメンバーは、いつも同じ。
 上っ面だけ愛想よく見せてても、本当の俺は自分からは新しい関係を広げられなくて、友人も少ない。


 そんな情けない俺だから、自分からダニエルに声をかけるなんて、どうしていいのか分からなくて出来そうになかった。

 後日、フレディに
「ほら、あの子がダニエル・マッカーシーだ」と教えて貰っても、意識し過ぎて。
 視線を向けないようにして通り過ぎるだけで、話しかけるのは、やっぱり無理だった。

 知らない男から視線を向けられたり、馴れ馴れしく声を掛けられても、彼女だって気持ち悪いだけだろう。
 それを、何も動けない事の言い訳みたいにしていた。
 


 彼女に教えられた通り、バス停に着いた10分後には空いているバスが来て、俺は誰にも気付かれずに、2階に上がって席に座った。
 今日まで乗ったことが無くて、乗りたいとも言えなかった2階建てオムニバスの念願の2階席なのに。
 

 ダニエルと1階で立ちっぱなしだった、彼女の家へ向かうバスの方が心は躍ってた。

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