まだ誰も知らない恋を始めよう
  ◇◇◇


 今日の昼休憩で、先に休憩室でパンをかじりながら参考書を読んでいたジェラルディン・キャンベルに、試しに尋ねてみた。

 彼女は弁護士を目指していて、王都大法学部合格のために時間があると参考書とにらめっこをしている受験生だ。
 

「人を消せる魔法ですか……」

 18歳という年齢の割に、わたしより遥かに落ち着いた性格の彼女は、魔法と聞いても笑ったりしない。
 

「魔法士の誓いから外れた者達を黒魔法士と呼ぶのですが、報酬さえ渡せば、彼等ならそんな魔法も使うかも知れませんね」

 ジェリーは静かに参考書を閉じて、テーブルの上に置いた。
 シーズンズの同僚で、わたしの後から入ってきて、あっという間に今まで言えなかったけれど、なんだかなぁ、だったお店のシステムを合理的に改良するアイデアを出したのは彼女だ。


「外れ、と呼ばれる黒魔法士の存在は、魔法学院や魔法庁からすれば恥部なので、素直に教えてくれないかもしれませんが。
 それに、彼等はとても危険な存在です。
 興味本位で知りたいのなら、絶対に止めた方がいいですが、ダニエルさんの非常事態での話なら……教官をされているレベッカ・ヴィオンという女性を訪ねてみてください。
 わたしの名前を出してくださって結構ですから」

 
 明日は休息日にして、明後日の月曜日の予定確認をしている内に、終バスの時間が迫ってきて。
 わたしはフィニアスを追い出して。
 ……それから、別れ際の彼との会話を思い出していた。
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