まだ誰も知らない恋を始めよう
「……あのクソ馬鹿まぬけぐだぐだ野郎に言われたことは、全然気にしていないよ。
 ただ、人の悪意に触れるのが怖い、と父に言ったら、眼鏡で目を隠して、気付かれないようにするのも手だ、って。
 貴方は綺麗だと言ってくれるけれど、あのニールみたいな奴は、たくさん居る。
 目が光るからと怖がられたり、騒がれるのは嫌だし」

「こんなこと聞くのは、立ち入り過ぎかもしれないけど、君がパーティーや集まりに出席しないのは、大勢の人間と1度に会うのが嫌で?」

「誰かから聞いた? 暗い女とか?
 うん……普段のね、授業とかランチタイムとか。 
 日中は皆明るくて、眼鏡でシャットアウト出来て、それ程の悪意は感じない。
 だけど、夜にお酒が入ったりすると、普段は隠している欲望や抑えている怒りとか、そんなものを剥き出してくる連中も居て。
 自分に向けられた感情じゃなくても、吐きそうになる。
 最初の新入生歓迎会で、そんなのを目の当たりにしても黙って見てるだけしか出来ないのが嫌になった。
 わたし自身も、楽しいからって交遊関係を広げて、正直に気持ちをぶつけて、その結果……悪意を返されるのが怖い。
 だから、自分の主張を抑えて角を立てないようにして、平和主義の大人の女を気取ってる……臆病者です……」
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