まだ誰も知らない恋を始めよう
「……お兄様にも、俺が見えるんですか?」

 モーリス卿にダニエル以上の能力があるのなら、俺が見えるのも当然なのに俺は馬鹿みたいな質問をした。
 最悪だ、さいあく……

 彼女の兄との初めての邂逅が、いけない現場を押さえられた間男みたいになってるよ。 
 きっと俺の印象は、さいあく……


「あぁぁ? たりめーだ。
 それからな、赤の他人が、お兄様なんて呼ぶんじゃねぇ。
 許さねぇぞ、コラ!」

「あのね、いい加減にして。
 兄さんもね、初対面の人に対してお前とか、コラはないでしょう?
 本当に口が悪くて、好戦的で、妹として恥ずかしいよ。
 わたしの兄さんはヤカラだ、ヤ、カ、ラ!」

 モーリス卿の繊細そうな見た目からは想像も出来ない物言いに、立ち上がった勇者ダニエルが。
 裏切り者の魔道騎士モーリスを突き放したように、冷静に文句を付けた。 


「いや、だって、エル……
 なんで、こんな夜遅くまで、呪いを受けた男が居るんだよ?
 エルのことを心配する気持ちが分からないかな。
 一緒に居るのが、どうか女の子の友達でありますように、と祈りながら駆けつけたお兄ちゃんに、そんなにキツく……」

 俺に向けた顔とは一転して、まるで妹の機嫌を取るように、モーリス卿はおとなしく言い返している。

 心配して駆けつけた?
 ここに誰かが居るのを感知した?


 ……マッカーシー家の能力は凄過ぎる、と改めて実感した俺だ。
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