まだ誰も知らない恋を始めよう

24　兄からぺしゃんこにされたわたし

「お前、馬鹿なの……」

　静かな兄の声は、怒鳴られるよりも、わたしの心を抉る。


「あんな女に同行して外国へ行って、現地で証拠を掴んで？
　もし、アイリーンがその場で捕まったとしたら？
　他国の官憲に捕まったら、あの女と行動を共にして、且つ証拠の品を持っているお前は共犯どころか主犯にされる可能性は考えたのか？
　お前はその国の司法で裁かれる。
　知名度の高いアイリーンとは違い、お前は母国のどこの機関にも属していない学生でしかない。
　不利な条件を付けられてまで取引したくない王家も、魔法庁も、きっと黙殺する。
　外国でクスリ関係で捕まった学生がどんな過酷な場所に送られているのか、知ってるか？
　多分それより、もっと罪が重い重要文化財の盗難は……お前がどんなに自分の無実を訴えても、親父と俺が必死になって動いても、お前は軽い刑じゃ済まない。
　国によっては死刑だって有り得る。
　その覚悟はあったのか？ それとも考えもしなかったのか？」

　捕まった後……兄に指摘されるまで、自分が逮捕されるかも、なんて考えてなかった。
　もちろん、覚悟なんて無い。

　どんなに小さな物であろうと、歴史的価値の高い（つまり高く売れる）文化財を国外へ持ち出そうとすれば、外国人のわたしは見せしめで刑罰を重くされるだろう。
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