まだ誰も知らない恋を始めよう
 兄がその可能性を口にした死刑なんて最悪な事態を、想定していなかった愚かなわたしは自分を過信していた。
 何としてでもアイリーン・シーバスの心を読み取って尻尾を掴み、その罪の証拠を手に入れ、兄に差し出す。
 そうなれば兄の手柄になり、わたしの名前は表に出なくとも、能力の証明にもなると……
 

「……ダニエル、転部しないか?
 同じ大学内なら、転部試験もそれ程難しくは無いだろう。
 奨学金の事を気にしてるなら、俺もある程度は稼げるようになったし、学費を出させてくれよ」

「シーバスゼミには、入らないから……」

 アイリーンと物理的に離したい兄のせっかくの申し出に、わたしは首肯出来ない。
 兄は4年間、奨学金で大学へ通い、今も返済をしている。
 だからわたしもそうしようと思っていたし、何より兄を騙してまで進学したのだから、学費を出して貰う訳にはいかなかった。

 それに卒業まで、後1年。
 今更、転部して学びたいものなど無い。
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