七番目の鏡子さんと招き猫
 緑ネクタイ、中等部二年の囲碁将棋部、田沼君の話によれば、元々、囲碁将棋部は三人いた。
 だが、この一ヶ月の間に、二人の部員は退部してしまったのだ。
 そして、田沼君が理由を聞けば、二人とも青くなって逃げてしまったと。

「おそらくは、黒羽が留学してから動き出した怪異だろうにゃ。時期的に間違いないのにゃ」

 ミタマちゃんの本体、三毛猫がぷよぷよと招き猫から出てきて、前足を舐めながら偉そうにしている。

「やっぱり怪異なんだ。正体分かる?」
「うーん。今の話だとサッパリじゃにゃ」

 そうか……。もう少しお話を聞かないと無理か。

「え、何? 誰と話しているの?」

 そう、ミタマちゃんの本体である三毛猫姿は、残念ながら黒羽先輩や私以外見えないし、声も聞こえない。霊感の強さ……てか、祓う能力はあるのに、霊が全く見えない人もいるから、何がどう作用しているのかは、ちっとも私には分からない。

 黒羽先輩の説明によると、「音楽で例えれば、こういう能力は絶対音感みたいなもの。あっても、鍛えなきゃ楽器は弾けないし、楽器が弾けても絶対音感がない人間もいるでしょ」。と、いうことらしかった。

「ともかく……もっと調べてみないと、何とも言えないし」
「調べるって、何をどう?」

 田沼君が首をかしげる。
 どうしようか……。

「うーん。もう一度、止めた二人の子達と話をしてみるとか……部室に行ってみるとか……かな?」

 私は、思いつくことをあげてみる。

「まあ、そうじゃろうにゃ!」

 ミタマちゃんも同意してくれる。
 ……ということは、もう善は急げだ。ここでダラダラしている理由はない。

「田沼君、案内して」

 私は、ミタマちゃんの依り代である招き猫を抱えて立ち上がった。

 目指すは、囲碁将棋部の部室。
 広い和室だ。うらやましいっ! 階段下とは大違いだ。

 三人でこの和室を使っていたんだ。
 十畳ほどの和室の周囲には、歴代の部員が取ったであろう賞状が飾ってある。

「昔は、たくさん部員が居たみたいで、賞状はたくさんあるんだけれどもね、最近はサッパリ。部費もほとんどゼロ! まぁ……囲碁も将棋も、昔からの盤はあるし、遠征費が自腹になること以外は、そんなには困らなかったんだけれども」

 田沼君が、賞状を見上げながら教えてくれた。
 生徒会が、大きな実績をあげた部に部費を集中する
システムを導入してからは、実績のあげにくい部活は、虐げられる。

「えっと……何か、感じる?」
「うーん。今のところ感じないけれども……ミタマちゃんは、どう?」
「おるにゃ」

 ミタマちゃんが即答する。
 ミタマちゃんの本体、猫がじっと見つめるのは、押入れだ。
 え、あそこ?

「彩音、開けてみるにゃ」

 ええっ! 嫌なんだけれど。
 何か怖いものが飛び出してきたら、困る。

 いや……でも、黒羽先輩の留守を守るわたしとしては、開けざるを得ないというか。

 怪異が見えるというだけで、何一つ怪異と戦う方法を持たないわたし。
 めちゃくちゃ怖いんだけれど。

「ミタマちゃん、何か飛び出してきたら、守ってよ」
「嫌じゃにゃ!」
「嫌って何よ! そこは、否定しないでよ!」

 オロオロしているわたしを見て、後ろで田沼君がドン引きしている。

「いいかげん、なれてきたけれども。独り言が凄すぎて怖いよ?」

 そうだった。
 ミタマちゃんが見えない田沼君からすれば、わたしは、ペラペラと招き猫の置き物相手に独り言を言いまくる怪しい女子。
 
「コホン」

 とりあえず、咳払いしてごまかす。

「えっと、どうやらあの押入れが怪しいの」
「押入れ? そういえば……開けたことないなぁ」

 うっそ。
 じゃあ、何が入っているか分からないじゃない。
 どうしよう、干からびたミイラ的な物が出て来たりしたら。殺人事件だ。
 うわっ。やだ。

「いいから、サッサと開けるにゃ!」

 ミタマちゃんが急かす。
 やるしか……ないよね。

 わたしは、恐る恐る、押入れの襖に手をかけた。
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