七番目の鏡子さんと招き猫
 スパンッ!

 勢いよく開けた押入れ……。
 怖いものでと入っているかと思えば、大したものは入っていない。
 古い碁盤と碁石の入っているであろう器。
 薄っすらと埃をかぶっているのは、田沼君の言う通り、誰も開けたことのない押入れ入れられていたからだろう。
 ずいぶんと使われていないようで、埃をかぶっている。

「ええ……何もないじゃない」
「だよな」

 拍子抜けするくらいに静から押入れの中。
 わたしと田沼君は、顔を見合わせる。
 ミタマちゃんったら、さてはわたしを驚かせようとしたに違いない。

「彩音! 上にゃ!」

 え……上?

 ポタリ……。
 わたしの肩に、何か冷たい液体が落ちてくる。

 見上げると、グニャグニャとした黒いドロドロのものが天井に張り付いて、パックリと開いた赤い口にゾロリと黄ばんだ歯を光らせながらヨダレを垂らしている。
 じゃあ、今、わたしの肩に落ちた液体は、あのヨダレってことだろう。

 うわぁ……。

「え、上に何かあるの?」

 怪異が見えない田沼君は、上を見て顔をしかめているわたしを、不思議そうに見ている。
 あれが見えないなんて、それは幸せなことだ。
 わたしだって、好きであれが見えているわけではない。

 ゆっくりと黒く細い腕が田沼君の方へ降りてくる。
 田沼君の首に、長い指が巻きつこうとする。

「わ、何? 冷たい!」
「た、田沼君!」

 どうしよう。指が田沼君の首を絞め始める。

「急に……いき、息が!」

 見えない田沼君は、まさか自分が怪異に襲われているなんて思わないから、パニックだ。

「シャー! フー!」

 ミタマちゃん本体の猫が、田沼君の首に巻きつく指に爪を立てる。
 ミタマちゃんの攻撃が痛かったのか、怪異のゆえが田沼君から離れる。

 わたしはすかさず田沼君を引っ張って、自分の後ろへ田沼君をかばう。
 田沼君は、見えないのだから、わたしが守らなきゃ!
 でも、こんな気持ち悪い怪異、どうやって戦えば良いのよ!

「ミタマちゃん、どうしよう!」
「ええい! 我の本体の底を開けるにゃ!」

 底? 何のことだ?
 ミタマちゃんの本体である招き猫を裏返すと、ふたがついている。

「え、ミタマちゃん貯金箱だったの?」
「にゃにを失礼にゃ! 貯金箱じゃないにゃ! いいから開けるにゃ!」

 開けろと言われて、ミタマちゃんの底に付いているふたを開けると、中が空洞になっていて、びっしりと紙が入っている。

「一枚、引っ張り出すにゃ!」
「一枚……」

 引っ張り出してみると、短冊みたいな紙に墨で何かが書いてある。
 文字か模様かも分からない。
 でも、これを取り出した瞬間に、怪異が少し怯えて後ろに下がった気がする。

「おフダにゃ! ミタマをミタマたらしめている、霊感あらたかな高僧がかつて書いた霊符!」

 ミタマをミタマたらしめて……?
 よくわからないが、偉いお坊様が書いたフダならば、怪異に効きそうだ。

 だって、ほら、こちらに伸びていた腕を引っ込めて、怪異はこちらをうかがっているようだ。

「グルルルルル……」

 怪異が悔しそうに、唸り声を上げている。
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