新海に咲く愛

3.海斗との距離

レッスン中、海斗は一人ひとり丁寧に指導していた。
そして泳ぎ方についてアドバイスするため奈緒にも声をかける。

「中村さん、大丈夫ですか？ 無理せずゆっくりやりましょうね。」

その優しい声と言葉。
それだけでも奈緒には救いだった。
しかし同時に、それ以上踏み込まれることへの恐怖も感じていた。

もしこの人にも自分の闇を知られてしまったら――そんな不安だけが心によぎった。
レッスン終盤、水中でバランスを崩した奈緒はふらつき、そのまま沈みそうになった。
その瞬間、水中へ飛び込む音とともに海斗が駆け寄った。

「中村さん！ 大丈夫ですか？」

水面から引き上げられた奈緒。その腕には長袖水着越しでもわかるほど新しいあざが浮かび上がっている。

それを見た海斗は一瞬表情を曇らせたものの、
「無理しないでくださいね」と優しく声をかけただけだった。
その優しさだけでも、今の奈緒には十分すぎるほどだった。
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