新海に咲く愛
翌日、奈緒は姑・美智子から電話で叱責されていた。

「奈緒さん、あなたスイミングスクールではちゃんとやっているんでしょうね？ 貴弘から聞いたけど、最近調子悪いんじゃない？」

奈緒は電話越しで頭を下げながら答える。

「はい、お義母様……ちゃんと通っています。」

美智子はため息交じりに続けた。

「いい？ あなたは中村家の嫁なのよ。私たちの名誉を守るためにも、自分磨きを怠らないでちょうだい。」

その言葉には愛情など微塵も感じられなかった。
ただ世間体を守るためだけに発せられた命令だった。
電話を切った後も、美智子の声が頭の中で響いていた。

「自分磨き」「嫁として」――それらの言葉が奈緒の心を締め付ける。
それでも彼女はスイミングスクールへ向かった。

この場所だけが、自分が少しだけ自由になれる空間だったからだ。

プールサイドではインストラクターの小林海斗が生徒たちと談笑している姿が見えた。
その明るい笑顔と穏やかな雰囲気――それだけで、この場所だけが自分にとって息苦しくない空間だと感じさせてくれる。
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