内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。
5.妻としての役割

「きゃははっ!」

 璃子は、はしゃぎながら青々と茂った芝生の上を夢中で走っていった。

(思っていたよりもずっと広そうね)

 見渡す限り続く青い芝生は、風が吹くと爽やかな草の匂いを運んでくれる。
 休みのこの日、藍里たちは蒼佑の運転で遊具がたくさんある大きな公園まで遊びにやって来ていた。

「ママ〜!」
「璃子っ! ほら、気をつけて! ちゃんと前を見て走らないと危ないわよ!」

 片手を上げながら後ろを振り返る娘を心配し、藍里が注意を促したその矢先のことだ。

「きゃっ!」

 地面に突き出していた石につまずき、身体がつんのめる。

「おっと」

 転ばなかったのは寸でのところで、蒼佑にキャッチしてもらったからだ。

「気をつけないといけないのは藍里もだな」
「ありがとうございます……」

 ごもっともな意見に反省しお礼を言うと、蒼佑はクスリと笑った。
 今度こそ転ばないように、璃子を中心に三人で手を繋ぎ、芝生広場を歩いていく。
 日差しが当たらない木陰の下にレジャーシートを広げたら、早速昼食の支度を始める。
 屋敷から持参した籐の籠の中には具沢山のサンドイッチとコンソメスープの入った水筒。保冷容器の中には色とりどりのフルーツ。どれも小牧が用意してくれたものだ。
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