内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。

(こんなに話が合う男性は初めて)

 しかし、楽しい時間は一瞬で過ぎ去っていく。
 コーヒーのおかわりが三杯目に達したときだ。
 会話が弾んでいるその最中、突如藍里のスマホのアラームが鳴る。
 飛行機に乗り遅れないようにと、ホテルを出る前にセットしておいたものだった。

「そろそろ空港に行かないと」
「空港まで送るよ」
「でも……」
「この時間だとバスは混んでいるし、タクシーで行こう。裏道も知っているから案内も任せて」

 蒼佑はそう言うと、カフェの店主に会計を頼んだ。
 多少強引ではあるものの、藍里は大人しく彼の言う通りに従った。

(もう少しだけ……いいよね?)

 藍里もこのまま別れてしまうのは惜しいと感じていたのだ。
 カフェを出たふたりは大通りまで歩き、タクシーを拾った。
 途中で手荷物預かり所に寄り、預けていたスーツケースを受け取るとそのまま空港へ向かう。

(変わった人だなあ……)

 タクシーに揺られながら蒼佑の横顔をチラリと視線を送る。
 先ほど知り合ったばかりなのに、車中の沈黙がまったく苦にならない。よほど波長が合うのかもしれない。
< 14 / 187 >

この作品をシェア

pagetop