内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。
その後、蒼佑が宣言通りタクシー運転手に細かく指示をだしてくれたおかげで、空港までは渋滞に巻き込まれることなく辿り着けた。
一緒に空港に降り立つと、彼は率先してスーツケースを運ぶのを手伝ってくれる。
「あれ?」
迫りくる別れの時間に名残惜しさを感じ始めてたそのとき、藍里はある異変に気がついた。
予約した航空券を受け取るため航空会社のカウンターの前まで行くと、なぜか長蛇の列ができていたのだ。
どこか殺伐とした様子に違和感を覚え、日本語のできるグランドスタッフを見つけるなり、なにがあったのか早速尋ねる。
「機材トラブルですか?」
「はい。ご搭乗予定のお客様には他の便への振り替えをご案内をしております」
対応に追われているのかグランドスタッフは口早に言い、深々と頭を下げた。
「そんな……」
ようやく事態を把握した藍里は途方に暮れた。
予定の飛行機に乗れないとなると、自力で他の航空会社を探して予約を取り直すか、グランドスタッフの言う通り他の便に振り替えるしかない。
しかし、あたりには同じ考えの人ばかりだ。明日の便を確保できるかどうかはかなり怪しい。
それでも、一縷の望みにかけてみるしかない。
(仕方ないか……)
長蛇の列に並ぼうとする藍里を蒼佑が引き留める。