内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。
(行ってしまった……)
走り出した車体が小さくなるにつれて、藍里も次第に心細くなっていく。
寂しいのは藍里も同じだ。今生の別れのように大げさに旅立っていった蒼佑の行動を笑えない。
(こんな気持ちになるなんて……)
いつの間にか三人でいることが当たり前になっていたから、彼がいなくて余計に寂しく思うのかもしれない。
(私たち、ようやく『家族』になれたのかな?)
愛する者同士が夫婦の縁を結び、同じ屋根の下で暮らすことで家族になった。
蒼佑のひたむきな愛を受け入れ胸のつかえがなくなった藍里は、もはや生まれ変わったような気持ちだ。目に映るものすべてを心から愛おしいと思える。
「ママ~?」
いつまでもロータリーで立ち尽くす藍里に、璃子が首を傾げる。
藍里はふふっと笑い、愛娘にむぎゅっと頬ずりをした。
「さあ、お家の中に入ろうか。小牧さんがおやつにホットケーキを作ってくれるって」
「やった~!」
大好物のホットケーキと聞いて、璃子は両手を上げて喜んだ。
(一週間なんてきっとあっという間よね)
留守を預かった藍里は、何事もなく終わるはずだと軽く考えていた。
異変が起きたのは蒼佑がバンコクに旅立って三日後のことだった。