内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。
「宗像さ~ん」
「はーい?」
「宗像さんにお客様がいらっしゃってますけど……」
「私に?」
事務アシスタントの社員からそう言われた藍里は、慌てて目の前にあるパソコンで今日のスケジュールを確認した。
思った通り、今日はクライアントとのアポイントの予定は入っていない。
(誰だろう?)
不審に思いつつも藍里は席を立ち、客人を待たせている打ち合わせルームへ向かった。
予定がないからといって追い返すわけにもいかないし、日付や時間を勘違いするなんて失敗は、誰しも一度くらいは経験したことがあるだろう。
「失礼します」
礼儀作法通り、三回ノックしてから扉を開けた次の瞬間、藍里の表情が固まる。
「藍里、久し振り」
「叔父さん?」
驚きすぎて息が止まるかと思った。
椅子に座っていたのは音信不通になっていた譲治だった。
「どうして……ここに?」
「姪に会いに来るのに理由がいるのか?」
譲治はなにごともなかったかのように、藍里に笑いかけた。一億円を持ち逃げしたとはとても思えないほど、のほほんとしている。