内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。

(いったい、なにしに来たの?)

 藍里は警戒心を強めながら、テーブルを挟んだ真向いの椅子に腰掛けた。
 後れ毛を耳にかけながら、さりげなく譲治の様子を観察する。
 譲治の身なりにおかしなところはない。極端に華美になったり、逆にみすぼらしくなった点も見当たらない。
 突然音信不通になり、もしかしたら路頭に迷っているのはないかと密かに心配していたのだが、顔を眺めてみると肌艶も悪くない。
 藍里はそれとはわからぬよう、こっそり安堵のため息をもらした。

「今までどこにいたの? メッセージを送っても帰ってこなし、心配していたのよ」
「ハワイだよ。ほら? 写真を見るかい?」

 譲治はスマホで撮った写真を、うれしそうに見せてきた。
 藍里は写真を眺めるなり、眉を顰めた。

(なにこれ……)

 譲治の周りには見るからに派手な出で立ちの男性が何人も立っていた。
 腕には高級腕時計、高級ブランドのロゴの入ったシャツや、高そうなサングラスを着用し、手にはシャンパングラスを持っている。
 投資詐欺を企てる人の中には、資金集めの一環としてあえて羽振りの良さをアピールしたり、支援者たちを接待したりすると、なにかで聞いたことがある。
 彼らと肩を組んではしゃいでいる叔父の姿が滑稽に思えて仕方ない。
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