内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。

 ◇

「ここですか?」
「ああ、そうだ」

 蒼佑に連れられてやって来たのは、ルネッサンスの息吹を彷彿とさせるクラシカルなラグジュアリーホテルだった。
 広い入り口のロビーホールの天井にはダ・ヴィンチの宗教画を彷彿とさせる美しい天使の絵があり、格調の高さを感じさせた。
 藍里がフィレンツェ滞在中に泊まっていたホテルとは雲泥の差だ。
 会社の経費で泊まったホテルは、中ランクのグレードのホテルにもかかわらず、設備はいまいちだった。
 三日間の滞在中にシャワーの水が止まらなくなったり、備え付けのコンセントが壊れていたり散々な目に遭った。
 少なくとも、このホテルではそんな事態には陥らないだろう。

「こちらだ」

 蒼佑はフロントを素通りし、ジャケットの内ポケットからカードキーを取り出すと、エレベーターホールの前に設置されているリーダーにかざした。
 エレベーターに乗り込み扉が閉まるやいなや、階数ボタンを押す前にエレベーターが動き出す。
 古風なベル音とともに到着したのは最上階。ワンフロアに一室しかないスイートルームだった。

「どうぞ」

 蒼佑に扉を開けてもらい、おずおずと部屋の中に足を踏み入れる。
 部屋に入るとすぐ、アンティークの家具が配置された広々としたリビングルームがある。
 バルコニーの窓からはフィレンツェの美しい街並みが遠くまで見渡せた。
 空港からとんぼ帰りした今は、夕陽が沈んでいくさまがよく見えた。
 あまりの眩しさに目を細め、手のひらで庇を作る。
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