内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。
(今日は空港に一泊するしかないか)
今宵の寝床は空港の硬い椅子だと覚悟を決める藍里に対し、蒼佑はさらに続けた。
「今夜泊まる場所なら問題ない。俺が滞在したいるホテルに来ればいい」
「え?」
藍里は思わず自分の耳を疑った。
今、蒼佑はなんて言った?
「部屋も余っているし、ちょうどいい。これもなにかの縁だろう?」
そう言うと、蒼佑は再びスーツケースの持ち手を掴み、タクシー乗り場に引き返し始めた。
藍里は慌てて彼のあとを追いかけた。
「ちょっと待ってください! これ以上迷惑をかけるわけには……」
「藍里をひとりで空港に置いていく方がよっぽど心配だ。それとも、どこか泊まる当てがあるのか?」
そう尋ねられると、途端にぐうの音も出なくなる。
気安く寝泊まりできるような親しい知り合いもいないフィレンツェに取り残された藍里にとって、願ってもない申し出であるのは間違いない。
こうして、藍里と蒼佑は再びタクシーに乗り、フィレンツェの街に戻ったのだった。