内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。
「別に大したことはしていないよ。でも、藍里はもう少し気をつけた方がいい」
「え?」
「旅先で心を許した男に下心がないとは限らない。だから無防備な姿は見せない方がいい」
蒼佑はたしなめるようにそう言うと、己の胸もとをトントンと指さした。
つられるようにして自分のガウンに視線を落とせば、あわや谷間が見えそうになっていた。ベッドで何度も寝返りをしていたせいだ。
「あっ」
藍里の頬がにわかに熱くなる。慌てて見苦しい胸もとを手で覆い隠す。
「ははっ。なんてね」
蒼佑は最後におどけて笑ってみせると、飲みかけのミネラルウォーターを冷蔵庫にしまった。
「そ、蒼佑さんにも下心があるんですか?」
「……どうかな?」
蒼佑は曖昧にはぐらかすだけで、下心の存在そのものを否定しなかった。
藍里はガウンのあわせをぎゅっと握り締めた。
「私はありますよ、下心……」
勇気を振り絞ったつもりだったが、言ってしまったあとで、藍里は急に我に返った。
(わ、私ってば! な、なにを口走って……!)
蒼佑がどんな表情をしているのか考えるだけで恐ろしくなり、顔が上げられなくなる。
「今のは忘れてください!」
一日の間に色々なことがあったせいなのか、緊張の糸が緩みすぎている。
少なくとも、今日知り合ったばかりの男性に対してポロっと零してしまっていい発言ではない。
旅の恥はかき捨てというけれど、あまりにも理性のタガが外れている。
恥ずかしくなった藍里が蒼佑に背を向け、その場から立ち去ろうとしたそのとき、行く手を阻むように後ろから腕がのばされた。