内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。
「蒼佑さん?」
「まだ起きていたのか?」
シャワーを浴びたあとなのか、蒼佑の髪はまだ濡れている。親密な関係にならなければ見られないはずの光景から、なんとなく目を逸らす。
「はい。なんだか寝付けなくて……」
「なにか飲む?」
「じゃあ、お水を」
そう言うと、蒼佑は冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出しグラスに入れて渡してくれた。
ひんやりとした感触が渇いた喉を潤していく。
グラスをカウンターに置いた藍里は、この日ずっとため込んでいた想いを吐き出した。
「あの……色々と助けていただいて本当にありがとうございました」
藍里は蒼佑に向き直り改めてお礼を言った。
「チケットの手配してもらった上に、ホテルに泊まらせてもらって。食事まで……。なにかお礼ができたらいいんですけど」
蒼佑には本当によくしてもらった。
彼は空港からフィレンツェまで戻るタクシー代はおろか、食事代すら受け取ろうとしなかった。
いくらぐらいなのか見当もつかないが、この部屋の宿泊代だって蒼佑もちだ。