内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。
 ◇

「ん……」

 翌朝、藍里は寝返りの途中で目の奥にチクチクと突き刺すような朝日を感じて、重い瞼をこじ開けた。
 肌に直に感じるシーツの感触で、自分が生まれたままの姿で寝ていたことを知る。

(私、昨日……。蒼佑さんと……)

 藍里は昨夜の記憶を手繰り寄せながら、怠い身体に鞭を打ちシーツを掻き抱いた。
 身体のあちこちに蒼佑を受け入れた余韻がまだ残っていて、思い出すだけで顔から火が噴き出そうになる。

「蒼佑さん?」

 一緒に寝ていたはずの蒼佑はどこにいったのだろうだろう。部屋の中をぐるりと見回してみたが、彼の姿はどこにも見当たらない。
 その代わりにサイドテーブルの上に書置きが残されていた。

【トラブルが発生して急遽出掛けることになった。空港まで送れなくてごめん。帰国したら連絡してほしい】

 書置きには謝罪の言葉と一緒に、スマホの電話番号が記されていた。
 蒼佑直筆と思われる書置きをそっと指でなぞる。

(次があるって期待してもいいってことだよね?)

 連絡先を残したのは、一夜の関係で終わらせるつもりはないという明確な意思表示に他ならない。
 胸の中に温かい希望の火が灯っていくのを感じる。
 藍里は期待に胸を膨らませながら、帰国の途に着いた。
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