内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。
フィレンツェから帰国してから一週間後。
(蒼佑さんも帰国したかな……)
藍里はオフィスの隅にあるリフレッシュエリアでひとりお弁当を食べながら、窓からぼうっと空を見上げていた。
デジタルアンドシンクアーツの事務所は都心のオフィス街から遠く離れた郊外にある。
大型倉庫のような広い作りになっており、一階にはクライアントから持ち込まれた資料を保管する保管庫と、アーカイブ化に必要な機材が設置されている機材室。
外階段を上った二階部分には、藍里が仕事をする事務所が併設されている。
(フィレンツェにいたのがずっと前のことみたい)
時差ボケもすっかり治り、藍里は日常を取り戻しつつあった。
研修のレポートや日常業務に追われていると、フィレンツェでの出来事がまるで夢のように思える。
(いつ蒼佑さんに連絡しようかな)
最近の藍里の頭の中はそればかりで占められている。
あれほど藍里を悩ませていた同僚たちとの溝も、蒼佑の言葉を思い出すとそのうち時間が解決してくれると思えるようになった。
(よし。今夜、連絡してみよう)
帰国後のゴタゴタも落ち着いた頃合いだろう。そろそろ連絡してみてもいいかもしれない。
そうと決まれば今日は早めに仕事を片付けて家に帰りたい。
お弁当を食べ終わった藍里はランチボックスをバッグにしまい、気合十分で椅子から立ち上がった。
そのとき、ふとテーブルの上に経済新聞が置いてあるのが目に留まる。