内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。
2.焦がれた青との再会

「ああ、藍里! ちょうどよかった。せっかくお客様が来てくださったのに玄関の鍵が開かないんだ」

 三年前の出来事に思いを馳せていた藍里は、大仰に話しかけられ、白昼夢の中からようやく目を覚ました。
 ザクザクと落ち葉を踏みしめる音のする方へ視線を向けると、アトリエの裏側から父方の叔父の譲治(じょうじ)がやれやれと困ったように頭をかきながらこちらにやって来るのが見えた。
 蒼佑との再会に気を取られていたせいで、他に人の気配がすることに今まで気がつかなかった。

(お客様?)

 どうやら、蒼佑をアトリエに連れてきたのは譲治らしい。
 藍里はますます不信感を募らせた。譲治がなんのために蒼佑をアトリエに連れてきたのか、目的がわからない。

「アトリエの鍵は先月変えました」

 きっぱり告げたところ、譲治は父そっくりの顔でキョトンと首を傾げた。

「鍵を変えた? どうしてそんなことをしたんだ?」

 譲治はしらばっくれているわけではない。本気で玄関の鍵を取り替えた理由がわかっていないのだ。
 取り替えたアトリエの鍵は現在、藍里の手もとにしかない。譲治に渡さなかったのはわざとだ。
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