内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。
『ああ。絵を売ったのは私だよ。欲しいという人がいたから売ったんだ。誰もいないアトリエで埃を被っているだけなのも、しのびないだろう?』
問い詰めると譲治はあっさり白状した。悲しみに暮れる藍里とは対照的に、一切悪びれず、あっけらかんと言い放つ。
(ひどい……!)
絵が持ち出されていた事実にすぐ気づかなかったのは、仕事と育児に追われアトリエの管理を怠っていた藍里の失態でもある。
まさか、なんの相談もなく黙って父の絵を売り払ってしまうなんて、夢にも思っていなかった。
譲治の暴走を止めるため、これ以上の売却を防ぐため、藍里は苦肉の策として鍵を変えたのだ。
「藍里、まさか私を責めているのかい?」
譲治は藍里の怒りを感じ取ると、悲しそうに眉尻を下げた。
「絵を売るのは藍里と璃子のためでもあるんだ。あの会社に投資すれば、必ず大きなリターンが返ってくるはずなんだ。私に全部任せておきなさい」
譲治は任せておけとばかりに、大げさに左手で胸を叩いた。