内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。

「またその話をするのね……」

 この期に及んでまだ藍里を懐柔しようとするなんて、ほとほと呆れてしまう。
 売られてしまった絵の行方を探してみたが、ほとんど見つからなかった。
 譲治が売却を委託した画商は、誰に売ったのか頑として口を割らなかった。
 父の絵を買うぐらいなので、相手は国内外の富裕層に違いない。
 名の知れた画家でもある父の絵は海外での評価も高く、売却先は国内に限った話ではない。
 もし、国外に持ち出されていたら、誰の手に渡ったか突き止めるのは至難の業だ。
 よしんば絵の在処がわかったとしても、藍里の経済力では買い戻すことすらままならない。
 それなのに譲治は反省するどころか、絵を売ったお金をすべて胡散臭い投資話に注ぎ込んでいた。
『絶対に損しない投資先がある』などと、甘い言葉で唆し、湯水のごとくお金を使わせる典型的な投資詐欺の手口だ。
 そんな馬のいい話はないとどれだけ説き伏せても、譲治は警察に訴えるどころか、投資を辞める気配すらない。ますます金を注ぎ込もうとする一方だ。
 必ず儲かる話など、この世にあるはずがない。子どもでもわかる絵空事を、譲治は盲目的に信じ込んでいる。
< 37 / 187 >

この作品をシェア

pagetop