内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。
(驚くのも仕方ないよね)
三年前のあの日、蒼佑には自分が海老原清光の娘だと打ち明けないまま帰国した。
「藍里、こちらは三角蒼佑さんだ。【大空を駆ける鷹】を購入してくださったんだ」
今度は藍里が驚く番だった。
(蒼佑さんが?)
【大空を駆ける鷹】は父の名前を世に知らしめた作品だ。大きな絵画展で特賞を受賞し、父の代表作とも呼ばれている。
もし売られるとしたら、他の絵とは比べ物にならないほどの高値で取引されるだろう。
蒼佑は父のファンだと言っていたし、値段を気にせず絵を買おうとしてもおかしくはない。
しかし、藍里は絵を売るつもりは毛頭なかった。
「申し訳ありませんが、絵を売るつもりはありません。お引き取りください」
藍里は他人行儀にすっと頭を下げた。
ふたりの間にある繋がりを知らない譲治の手前、他人の振りをする必要がある。
「藍里、またそんなことを言って――」
「海老原さん」
蒼佑は藍里を嗜めようとする譲治の言葉を途中で遮った。
「今日のところは帰ります。絵の受け渡しはまた後日お願いします」
「まあ、三角さんがそう言うなら……」
譲治が口ごもりながら渋々引き下がると、藍里はホッと胸を撫で下ろした。
正直、蒼佑がそう言ってくれて助かった。
ところが、安心したのも束の間、その場から立ち去ろうとする蒼佑からすれ違いざまにそっと耳打ちされる。