内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。
「いいえ。今のところなんの問題ありませんよ。郡司さんの作る3Dデータはクライアントから評判がいいんですから」
「まったまたあ!」
褒められた郡司は満更でもなさそうに、白い歯を見せながらニッと笑った。
郡司は3Dモデルのエンジニアだ。
壺や彫刻といった立体物をあらゆる角度からスキャンし、3Dで再現するのが仕事だ。
郡司の作るデータは、細かいところまでよくできていると、お褒めの言葉をもらうことがある。
クライアントと直接会話をする機会が多い営業担当の藍里が言うのだ。彼女の技術力は間違いはない。
「まあ、なんでもないならいいのよ。落ち込んでいるなら、ランチでもおごってあげようと思ってたんだけどね。ほら、この間うちの子の誕生日にかわいいアイシングクッキーをくれたじゃない? そのお礼に! 明日なんてどう?」
「はい、ありがとうございます」
「じゃあ、また明日ね」
そう言うと郡司は階段を下り、一階にある作業室へ戻って行った。
彼女とは単なる同僚の間柄を超えて、同じ子を持つ母親としてプライベートでも親交があるが、到底蒼佑のことは相談できない。
(なにがあっても璃子との生活を守ってみせる)
藍里はデスクに飾った璃子の写真に誓いを立てると、息を吐き出し今度こそ仕事に意識を集中させた。