内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。
「待たせてごめん」
息を弾ませながら藍里に柔らかく微笑みかけるその表情に目が釘づけになる。
「私が早く着いただけですから」
まるで、デートの待ち合わせをしていた恋人同士のようなやりとりが妙に気恥ずかしい。
「こちらだ。部屋をとってある」
蒼佑はそう言うと、客室フロアへと続くエレベーターまで藍里をエスコートしてくれた。
てっきり、ロビーの隣にあるカフェテラスで話をするのだと思っていた。わざわざ部屋をとるなんて、よほど他人に聞かれたくないのだろう。
(当たり前か)
ただ歩いているだけで、ロビーにいる誰もがチラリと蒼佑に視線を送ってくる。
蒼佑がミスミビルディングの御曹司だと知らなくても、彼は衆目を集めるのに長けている人なのだ。
百八十センチを優に超える身長。海外製のスーツを着こなし、立ち居振る舞いにはどこか気品が漂う。
対する藍里はプチプラブランドとセールで買い揃えた服を着ており、蒼佑の後ろをぎこちない様子で歩いている。
(こんなことなら、もっとマシな服を買っておくべきだったな)
璃子を育てるために、日頃から節約を心がけているのが裏目に出てしまった。
これまで自分のことは後回しにしてきたが、今日ばかりは後悔に襲われる。