内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。
(迷惑をかけたくない)
彼にも家庭があるだろう。今さら自分たちがしゃしゃり出るわけにはいかない。
璃子を授けてくれただけで充分だと思わなければ。
「私たちのことは忘れて、どうぞご自分の家庭を大切になさってください」
これ以上話すつもりはない。
そう結論づけた藍里がトートバッグを肩にかけ、ソファから立ち上がろうとしたそのときだ。
「なにか勘違いをしていないか?」
「勘違い?」
「俺は独身だ」
「え……?」
ふと視線を蒼佑の左手に落とせば、薬指にはあるべきはずの結婚指輪が嵌められていない。
(どうして?)
三年前、結婚間近だと週刊誌に取り上げられていたのに、なぜいまだに独身を貫いているのだろう。
「それに、子どもの面倒を見るのは父親である俺の正当な権利だ」
蒼佑は藍里の戸惑いなどそっちのけで畳みかけた。
話の意図がまったく読めない。義務ではなく権利だと主張されても困ってしまう。
ホテルに呼び出されたのは完全に縁を切るためだと思っていたのに違うのか?
「私にどうしろって言うんですか?」
「俺と結婚してほしい」
彼が口にしたのは甘いプロポーズとは真逆の横柄な命令だった。
(結婚?)
なにを言っているのかわからず、藍里はしばし呆気に取られた。
数分後、ようやく理解が追いつくとたまらず声を荒らげる。