内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。
「な、なにを言っているんですか!? そんなの無理です! ありえない!」
「なぜだ? 俺も君も独身なんだ。結婚したってなんの問題もない。ふたりで子どもを育てていけばいいだろう? それとも互いの親
権を主張して血で血を洗う争いを始めるつもりか?」
痛いところを突かれ、グッと押し黙る。
もし法的手段に打ってこられたら、家柄や経済力で劣る藍里に到底勝ち目はない。
「と、とにかく! 結婚なんてできませんっ!」
結婚を申し出たということは、未婚なのはたしからしい。
けれども、血の繋がった我が子を引き取るためとはいえシングルマザーと結婚したらどんな悪評が立つかわからない。
(ダメよ……)
理性が警鐘を鳴らす。
しかし、頭ではわかっていても、身体は正直だ。
藍里は突然のプロポーズで赤くなっているであろう顔を隠すために、ふいと彼から目を逸らした。
再会した蒼佑は昔となにひとつ変わらない。
黒々とした瞳も、鼓膜を揺さぶる甘い響きも、変わらず藍里を魅了する。
蒼佑が他の女性と結婚間近だと知ったとき、渡された連絡先を捨てようとしたが、どうしても捨てられなかった。
結局、電話を掛ける勇気はなく、例の書置きは未練たらしく母子手帳と一緒に保管されている。
(忘れなきゃいけなかったのに……)
固く蓋をして心の奥深くしまっておいた恋心が、三年の月日を経てにわかにその存在を主張し始める。
それでも、藍里は頑として首を縦に振らなかった。