内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。
2.5.ずっと君だけを
「あなたと――結婚します」
藍里が観念したようにそう告げた瞬間、望んだひと言をもらえたうれしさから蒼佑の唇が優美な弧を描いた。
絵に対する藍里の気持ちを利用したような気がして罪悪感もあるが、どうしてもこのままにはしておけなかった。
(藍里と璃子をこの手で幸せにしたい)
どこから湧き上がるのかわからない衝動そのままに口にしたのは、偽らざる本心だ。
たとえ不要だと突き放されても、蒼佑は無理やりにでも藍里たち母娘に介入するつもりでいた。
なぜ、自分の子どもを産んだ女性に無関心でいられるだろう。同じ瞳を持つ娘がいるならなおさらだ。
蒼佑はテーブルの上に置いた売買契約書をしまい、今度は胸ポケットからスマホを取り出した。
「連絡先を交換しよう」
藍里の気が変わらないうちに、メッセージアプリのIDを互いに交換する。
連絡先が登録されたのを確認し、今度こそ安堵する。三年前の苦い失敗をもう二度と繰り返したくない。
「どうだ? このあと食事でも――」
「もうこんな時間!」
スマホを眺めていた藍里は今しがたなにかに気がついたのか、突然叫び出すと慌ててソファの上に折り畳んでおいたコートを着始めた。
「急いで帰らないと!」
コートを着るやいなや、今度はトートバッグを引っ掴み、出入口の扉まで駆け出していく。
蒼佑は慌てて藍里の肩を掴んだ。