内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。
「今後についてもう少しだけ話せないか?」
「娘のお迎えの時間があるんです!」
蒼佑の希望はあえなく断られる。
(お迎え?)
藍里が今もデジタルアーカイブの制作会社で働いているのは調査済みだ。彼女が働いている間、もちろん子どもは保育園に預けられているはずである。
(そうだ。今まで彼女ひとりで……)
世間一般の常識として頭では理解していたものの、今の今まで藍里が当事者なのだと蒼佑は思い至らなかった。
藍里の都合も考えずに、自分の要望を押しつけようとした自分をひたすら恥じる。
「それなら保育園までタクシーで送ろう」
「平気です。電車で帰りますから」
「いいから。俺の言う通りにして」
蒼佑は渋る藍里を説き伏せ、エントランスの前に整列したタクシーのひとつに強引に一緒に乗り込んだ。
後部座席にそろって座りタクシーが発進すると、車内は沈黙に包まれる。
(少し痩せたか?)
保育園へと向かうその車中、藍里は頑なに窓の外側ばかり眺めていた。
蒼佑はそんな藍里の様子に全神経を集中させる。一挙手一投足たりとも、見逃したくない。
――あの日もそうだった。
空港へ向かうタクシーの中、蒼佑はどうやって藍里を引き止めようか、そんな途方もないことばかり考えていた。