内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。
「次はどちらまで?」
運転手から次の行き先を尋ねられた蒼佑は、熟考の末に一計を案じた。
「このまま予定通り、保育園に向かってほしい」
そう告げると運転手は蒼佑の指示通りにハンドルを動かした。
藍里に見つからないよう先回りし、保育園のある通りとは反対側の車線にこっそりタクシーを停車してもらう。
数分後、園門が鈍い金属音をたてながらゆっくりと開いていき、藍里と娘の璃子が手を繋ぎながら歩道に姿を現す。
璃子はピンク色の大きな花がついたヘアゴムで髪を結んでいた。ひょこひょこと歩くたびに、ふたつにわけた毛束が耳の上でふわりと愛らしく揺れる。
最初は手を繋いでいたふたりだったが、数メートル歩くと璃子は短い腕を目いっぱい上に伸ばし抱っこをねだった。
藍里は仕方なさそうに笑い、璃子を抱き上げ、柔らかそうな頬をツンツンと指で突いた。
璃子はキャハハと高らかに笑い、藍里の首にぎゅっとしがみつく。
楽しそうな笑い声はタクシーの中にいる蒼佑のもとにも届いた。
幸せそのものの光景に、つい見惚れてしまう。
もし、この瞳に映るものを絵画にできるのなら、額縁に入れて飾っておきたいほどの名画に違いない。