内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。
(もしもあのとき、俺たちがすれ違わなかったら……)
今頃、蒼佑もあの家族団欒の輪に加わっていたかもしれない。
過ぎたことを今さらああだこうだと悔やんでもどうしようもないが、それでも考えずにはいられなかった。
先ほどまで藍里が隣にいたのに現実感がなく、ひどい焦燥感に打ちのめされる。
ほんの少し手を伸ばせば届きそうな距離にいるからこそ、もどかしくて胸が張り裂けそうになる。
蒼佑は藍里と璃子の姿が見えなくなるまで、後ろ姿を目で追い続けた。
幸せな瞬間が終わると、経営者の顔に戻る。
「オリエンタルパレスホテルまで」
蒼佑は運転手に行き先を告げ、ゆっくり目を瞑った。
脳裏には藍里と出会った三年前のフィレンツェの風景がありありと浮かんでいた。