内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。
◇
(ようやくひと息つける)
このとき、蒼佑はバンコクに建設予定のホテルの内装を手掛けるデザイナーとの打ち合わせでイタリアを訪れていた。
ミスミビルディングは日本国内だけではなく、海外にも開発の手を広げている。
バンコクの新ホテルにはモダンデザインの先駆者と呼ばれる新進気鋭のデザイナーを起用し、ラグジュアリーな中にもどこかホッとできる空間を提供する方針だ。
(久し振りの休みだな)
三日間にわたる商談を終えた蒼佑はホテルに着くなり、スーツを脱ぎ、私服のシャツとジャケットを羽織った。
この数か月休みなしで働いたあとにやっともぎ取った休暇を兼ねた渡欧は、蒼佑を解放的な気持ちにさせた。
日本へ帰国するまでのほんの数日のバカンス。
蒼佑はお気に入りの渚の母娘の絵を鑑賞するために、フィレンツェに行くと最初から決めていた。
蒼佑が渚の母娘の絵と始めて出会ったのは大学生のとき。
イギリス留学中、友人とフィレンツェまで観光にきて、裏路地にあったカフェに立ち寄ったのがきっかけだった。
オーナー曰く、常連になった画家からもらったというその絵を一目見た瞬間、蒼佑は雷に打たれたように動けなくなった。