内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。

「あの絵が気に入った?」

 急に話しかけられて女性は最初戸惑った様子だったが、話しかけた理由を説明すると眩い笑顔を見せてくれた。

「宗像藍里です」

 簡単な自己紹介を済ませ、同じテーブルにつくとことのほか会話が弾んだ。
 藍里との会話は新鮮だった。
 蒼佑の周りにいる女性は美術品の値段に興味はあるが、その内側にある素晴らしさにまで関心を向けることは少ない。
 藍里は彼女たちとは対極の存在だった。
 美術関連の職に就いているという彼女からは、作者への尊敬と作品への愛情を確かに感じた。
 自分のことを多くは語らない藍里に蒼佑は渚の母娘と同じ神秘性を見出し、徐々に興味を引かれていく。
 ふたりで過ごす時間は瞬く間に過ぎた。
 そのまま別れてしまうのが名残惜しくて、後ろ髪を引かれる思いで空港まで同行した。
 機材トラブルで一日帰国が延びた藍里に宿を提供したときには、ほのかな喜びすら覚えた。
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