内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。
3.新しい生活

「ミスミビルディングの御曹司と結婚!?」
「郡司さん!」

 藍里は慌てて郡司に向かって、しいっと親指を立てた。
 念のためこっそり辺りを見回してみるものの、他の客に変わった様子は見られず、各々の食事に集中しているようだ。

(よかった……)

 ランチタイムでも空いている穴場を選んだとはいえ、どこで誰が耳をそば立てているかわからない。

「ごめんね。つい、びっくりしちゃって……」

 郡司はひと言謝ると、注文したタコライスを神妙な面持ちで口に運んだ。
 話したいことがあると、郡司をわざわざランチに誘ったのは藍里だ。
 のちのち上司を通じて公にされる予定だが、日頃からお世話になっている郡司には、直接結婚を報告したかったのだ。

(驚くのも無理ないよね)

 正直なところ、彼女の反応は想定の範囲内だ。
 藍里だっていまだになにが起こっているのかよくわかっていない。
 アトリエの前で三年ぶりの再会を果たしてからたったひと月の間に、人生が大きく変わってしまった。
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