内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。

「はい、終わったよ」
「やった〜!」

 璃子はぴょんぴょん飛び跳ねながら、椅子から下りた。
 ふたりを遠巻きに眺めていたら、蒼佑が風呂上がりの藍里に気がつく。

「ほら、藍里も」

 こちらと来いと言わんばかりに、椅子の座面を叩き、手招きする。
 蒼佑の意図がわかり、かあっと身体が熱くなる。

「わ、私はいいですよ! 自分で乾かせますから……」
「いいから」
「ママもおくしゅりいやだよね~?」

 遠慮したいところではあるが、璃子にそう言われては敵わない。
 藍里は覚悟を決めると、椅子に座った。
 ドライヤーのスイッチが入り、轟音とともに温風が髪に当てられていく。
 璃子より長さも量もある分、余計に時間がかかる。

(気持ちいいかも……)

 長い指がときおり耳や頬をくすぐる。それすらも気持ちいいと感じてしまうぐらい、蒼佑のブラッシングは丁寧で、藍里を夢見心地にさせた。
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