内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。
「終わったよ」
「ありがとうございます」
至極のリフレッシュタイムが終わった直後、今度はコンコンとリビングの扉がノックされる。
「失礼します。奥さま、少しよろしいですか?」
「はい。なんでしょう?」
「破れてしまった璃子お嬢さまのタイツですが、こんな感じで繕ってみたのですが、いかがでしょう?」
小牧が見せたピンクのタイツには可愛らしいいちごのアップリケがつけられていた。
「いちごだあ~!」
璃子はタイツを覗き込むとうれしそうに叫んだ。
二日前、璃子が保育園で転んだ拍子に、膝小僧の部分に大きな穴ができてしまった。
ワゴンセールで買った安物だから捨ててもよかったのだが、璃子がどうしても捨てたくないと言い張り困り果てていたところ、小牧が補修すると申し出てくれたのだ。
「ありがとうございます。いつも本当に助かります」
「いえいえ。これぐらいいつでもお任せください」
小牧は会釈するとタイツをクローゼットにしまい、リビングから立ち去っていった。
小牧には本当にお世話になっている。
家事全般はおろか、ときには璃子の相手までしてくれるのだ。
それが彼女の仕事だとしても、感謝の念は尽きない。
(でも、このままじゃいけないよね……)
ところが、この三角家での快適な暮らしが藍里を大いに悩ませていた。