内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。

「別にいいと思うけどね。結婚したからには宗像さんは三角家の一員なんだし、堂々としていればいいじゃない」
「それはそうなんですけど……」

 気にするなと言われても、このまま頼りっぱなしではいけないと思ってしまうのだ。
 これは藍里の性分なのかもしれない。

「まあ、そんなに負い目があるなら、宗像さんが得意なことでお返ししてみたら?」
「得意なこと?」
「そうそう。お菓子を作るとか、花を生けるとか、なんでもいいんじゃない? まあ、夫婦なんだから『あなたのおかげでいつも助かってます』って、チューでもしとくのが一番だと思うけど」
「郡司さんっ!」

 藍里は抗議するように声を荒らげた。
 真面目に相談しているのに、茶化すなんてひどい。
 郡司がゲラゲラと笑いながらパソコンを遠隔操作すると、スキャナーがキュインと音を立てて動き出す。

(私の得意なことってなんだろう?)

 掃除も洗濯も人並みにこなせるが、プロの家政婦の前では霞んでしまう。
 スキャンが終わるのを待つ間、藍里は自分ができそうなことを考えていた。

「宗像さーん! 問題なさそうだから、次の古文書をセットして!」
「わかりました」

 郡司の指示を受け古文書に触れたその刹那、藍里の頭の中に名案が浮かんだ。
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