内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。
「コレクションルームの整理?」
その夜、藍里は璃子が寝静まったあと、執務室にいる蒼佑に嬉々として提案した。
「はい。一応学芸員の資格も持っていますし仕事柄、美術品の扱いは心得ています」
藍里はそう言うと誇らしげに胸を叩いた。大船に乗った気持ちで任せてもらいたい。
「本当にいいのか? 昼間も仕事があるんだから、夜くらいゆっくり休めばいいのに」
「実は璃子が寝てしまってからは暇で……」
以前なら、夜はたまった家事を片づけるので精いっぱいだった。
今では、それらすべてを家政婦が担っているため、夜はもっぱら読書をするかテレビを見るかぐらいで時間の使い方を持て余していた。
「私でお役に立てることがあるなら、うれしいです。蒼佑さんには叔父が持ち逃げしたお金の件でも、ご迷惑をおかけしていますし……」
「叔父さんの件について藍里が気に病む必要はない」
「でも……」
「俺がいいって言っているんだから、この話はこれで終わりだ」
真顔になった蒼佑はそれ以上の反論を許さず、藍里の意見を封殺した。
「でも、藍里がそこまで言うならコレクションの整理はお願いしようかな」
蒼佑はデスクの引き出しからコレクションルームの鍵を取り出すと、藍里に手渡した。
「コレクションルームにはいつでも入っていい。その方が好きなときに作業できるだろう?」
「ありがとうございます」
「お礼を言うのはこちらの方だ。よろしく頼む」
「はい!」
藍里は張り切って返事をしたのだった。