内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。

 ◇
 
「本当にすごい量……」

 翌日、動きやすいカットソーとボトムスに着替えた藍里はコレクションルームの棚を見上げ感心していた。
 所狭しと並べられた桐箱、緩衝材で包まれたままの絵画、古めかしい掛け軸。他にも青磁の壺から、漆塗りの食器、水墨画にいたるまで。コレクションルームは古今東西ありとあらゆる美術品が眠る宝の山だった。

「さて、どこから手をつけようかな」

 一日の作業時間は璃子の寝かしつけが終わってから、藍里が寝るまでの二時間ほど。
 データを整理するためのノートパソコンも蒼佑から借りて準備万端だ。
 藍里はまずコレクションの整理と分類から始めることにした。
 手袋をはめ、手近な棚に早速手を伸ばす。

(いったい、どうやって集めたんだろう)

 ミスミビルディングの前身となる会社は、戦前に創業された。
 創業者である蒼佑の祖父は戦後の焼け野原になった土地を買い進め、土地の整理やビル建設に勤しんだ。その後、ミスミビルディングに看板が改められ、不動産ディベロッパーとしての道を歩み始めた。
 そんな中、三角美術館は蒼佑の祖父が個人で収集したコレクションを広く見てもらいたいという慈善事業の一環として開業された。
 美術館の開業を機にコレクションの大半は移されたらしいので、目の前にある美術品たちは、彼のコレクションのほんの一部――のはずである。
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