内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。
(気をつけて作業しなきゃ)
蒼佑の祖父が美術館へ移さず手もとに置いたということは、大変貴重な品々に違いない。
預かったコレクションルームの鍵がチラと視界の端に映る。
屋敷にやって来てほんの数か月の藍里に、大事なコレクションルームの鍵を預けるなんて、不用心にもほどがある。
長年屋敷に勤めている小牧ですら、片手で数えるほどしか中に入ったことがないと言っていたのに。
彼は藍里ならばコレクションを粗雑に扱ったりしないと確信しているのだ。
ならば、出入りを許してくれた蒼佑の信用に報いたいと思う。
「ふう……」
ずしりと重たい長方形の桐箱を作業用のテーブルに置くと、藍里は張り詰めていた息をそっと吐き出した。
埃を払い蓋を開けてみると、中には見事な桜色の絵皿が入っていた。
「うわあ、素敵……」
名のある陶芸家が作ったものだろうか。
釉薬がかけられた表面には独特の艶があり、蛍光灯の光を受けて艶々と輝いている。
縁がまあるく滑らかで、貝殻を模した優美な楕円形は機械では作り出せない見事な弧を描いている。
藍里は絵皿を持ち上げ、しげしげと眺め始めた。