内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。
(っと、いけない。ぼうっとしている場合じゃなかった)
桜色の絵皿にすっかり魅了されていた藍里は、慌てて我に返った。
いくらコレクションが素晴らしくても、見惚れてばかりいては作業が進まない。
コレクションを検品するたびに、この調子で手が止まっていたら、先が思いやられる。
絵皿を元通り桐箱に戻したそのとき、キイッと入口の扉が開いた。
「どう? 進んでる?」
「蒼佑さん!」
扉から顔をのぞかせたのはスーツ姿の蒼佑だ。今しがた帰ってきたところなのだろう。
「気になって様子を見にきたんだ。見学してもいいか?」
「はい、どうぞ」
「なにをしていたんだ?」
蒼佑は興味津々といった面持ちでテーブルの上に視線を送る。
「数が多いので、まずは分類しようかと思っていたんですけど。実はお恥ずかしい話なんですが、早速見入ってしまって……」
手が止まっていたことを懺悔し恥じ入る藍里に、蒼佑はクスリと笑みをこぼす。
「藍里の目に留まるなんて、さすが秘蔵のコレクションだな。なにか手伝えることはある?」
「でも……」
「ひとりで全部やるなんて大変だろう?」
「じゃあ、そちらの棚の品をテーブルに下ろすのを手伝ってください」
藍里は蒼佑の厚意に素直に甘えることにした。