キミと桜を両手に持つ
「サイトが少し古くなったから新しい機能追加とデザイン変更をして欲しいと依頼が来てる。一応予算が決まってるから、それでスケジュールとか出して欲しい。それと再来週ミーティングがあるからそれに行ってきて欲しい」
前田さんは呆然としている私に資料を手渡した。トップには会社名に「アグノス株式会社様」と書いてある。そして担当者の名前は「花園香澄」。
この会社なら見たことがある。よくテレビなどでも宣伝をしている大手アパレル会社だ。
「行く時、皐月さんと遠坂くんを連れて行くといいよ」
前田さんはそう言うとガタンと椅子から立ち上がって部屋を出て行こうとした。私はどうしても好奇心に勝てなくて尋ねた。
「あの、どんな方ですか?高橋さんみたいに可愛い人とか……?」
もしくは絶世の美女?それとも仕事がすごくできるバリキャリとか?
「会ったらわかるよ。でも彼女はなかなか手強いよ」
前田さんはそう意味深に言うとミーティングルームから出て行った。
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「如月さん、もう出れる?」
「あ、はい」
藤堂さんに言われ慌ててノートパソコンや書類をバッグに詰めると、彼の後に続いて制作部を出た。
「前田さんと随分と仲がいいんだな」
エレベーターに乗り込んだ途端、藤堂さんはボソリと呟いた。
「えっ?仲はいいと言うか普通ですけど」
「随分楽しそうにミーティングしてたから」
「あ、あれですか?」
前田さんが私と藤堂さんから同じ柔軟剤が匂うって揶揄っていたのを見ていたのかな……?
「あれは前田さんが同じ柔軟剤の匂いがするって──…」
と言いかけて藤堂さんからふわりと彼がいつもつけている香水の匂いに気がついた。